大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和37年(く)12号 判決 1963年2月04日

少年 K(昭二一・一・二九生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福井家庭裁判所に差し戻す。

理由

一、各抗告人の抗告の趣意は附添人弁護士大橋茹の提出した抗告理由書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、当裁判所の判断

本件記録を調査すると、本件少年の非行事実は要するに他の少年二名及び成人一名と共謀し、昭和三七年○月○日午後六時五〇分頃福井県三方郡○○町△△、通称△△の砂取場附近路上を帰宅途中であつた○川○恵(二一年)及び○原○え(二一年)の両名を待ち伏せ、同女等を強姦しようとして、その際同女等に傷を負わせたというのであつて、原裁判所が少年を中等少年院へ送致することにした理由も一応首肯できないことはないが、当審における事実取調の結果を加味参酌すると、原決定が認めているように、少年の知能が低く、意思も弱いうえに、衝動性や被暗示性に偏つていたり、又本件が計画的、積極的兇悪な非行であることは否めないが、然し少年は本件当時年齢ようやく一六歳と九ヶ月で四名中最年少者であり、従つて思慮も極めて未熟な者であつたところから、成人を交えた他の三名の者と共に本件非行を敢行するに至つたものと認められる。又原決定のいうように、少年には反省の念が乏しいとか、生活態度不良、悪戯、浪費、不良交友の関係、保護能力の稀薄、環境の不良であるという事実は、にわかに断定しがたく、却つて少年の居住する××部落はもとより、同部落の属する○○町においても、少年の両親を始め、○○町長、××の区長、保護司等少年の保護に尽力している関係者達が将来本件のような非行を再び起さないよう具体的に善後策を講じて居り、かつ少年の両親は厳重に少年を監督すべきことを誓約し、少年も本件に対し充分反省改悛していることが認められる。少年の補導上の諸条件が原決定後相当変つていることをも考慮にいれこの際少年を少年院に収容して矯正教育を受けさせるよりも、むしろ、通常の社会生活を営ませつつ、これに適当な監督と援護を与え、その更生を計るのが相当と思料されるから、原決定は結局相当でないというべきである。

よつて少年法第三三条第二項前段、少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田義盛 裁判官 堀端弘士 裁判官 松田四郎)

参考二

抗告趣意

少年 K

強姦致傷保護事件の決定に対する抗告事件

右事件に付き、左の通り抗告趣意を開陳する。

第一点

一 原決定の処分は著しく不当と思料すべき事由がある。

その事由左の通りである。

二 去る本年十一月十二日、十三日両日に亘り全国少年係裁判官会同に於ける最高裁判所横田長官の挨拶を要約するに左の通りであります。

「このように少年事件の処理に当りましては一方で少年その人の保護的、教育的な処理がのぞまれると共に他方で社会公共の福祉と安全の為めの司法的な要請がありまして、これらを共に満足させることが必要であります。これら二つの要請はそれ自体二律背反的なものではありませんが、しかし、具体的な事件の処理に当つてそれらを調和させることは必ずしも容易ではありません。それにも拘らずよくその調和をはかり具体的な事件の処理において双方の要請がそれぞれ適当に満足させられるようにすることこそまさに少年審判の使命であり、その生命でありまたこの審判に当られる裁判官の責務であります」

この御挨拶は正に少年審判の妙諦を云いつくしているので少年の保護教育育成と社会公共の福祉と安全は必ずしも二律背反的なものでなく具体的に之を審判によつて調和の妙を発揮すべきものである。

三 目下の実情は少年審判の決定が云渡されるに先ち調査官は十分の調査をされるのであるが、ややもすると事件多数の為め(やむ得ない場合もあろうが)警察、検察官の取調と少年監別所の措置に委ねその結果を綜合して一応の結論を誘導し之を審判に該る裁判官に提供し審判に該る裁判官は自ら証拠調をする機会をもたないのが普通である。

従つて、成人の刑事事件とその審理過程を異にし裁判官が自ら所謂直接審理をなさないのでその心証を得難い所以である。

四 今本件に於て原審は

(イ) 被害者○川○恵、同○原○えを直接審訊していないことは勿論調査官も自ら訊問していないのである。

従つて、両被害者の審判に接着する時期に於ける心境を把握していないのである。

(ロ) 本件の如き風俗に関する事犯に於ては地方行政を司る○○町長○田○三等地方有力者が本件の如き犯行が何人によつても再び犯されないように如何に処置をしているか、所謂公共福祉と安全確保の方途を如何に考慮し企劃しているかを審にしていないのである。

これでは社会公共の福祉と安全の確保については何等の審理をしていないことになるのである。

(ハ) 少年の将来の保護監督についても単に両親にその意見を聞くだけでは勿論不十分である。

少くとも果して保護監督が十分なされる可能性あるや否やを審にしこの可能性あるも未た他の理由によつて保護観察に付すべきに非ずと判断するならば格別之を審にせず俄に少年院送致を審判したとすれば少くとも記録のみによつて審判決定云渡に先ち裁判官は審判の心証形成をなしていたものと云うべく不当も甚しいと云わねばならない。

少くとも審理をつくしていないのである。

五 判例を看るに東京高裁第七刑事部昭和二十八年十一月四日決定(高裁刑事特報三九号一六四頁)によれば少年院送致決定を取消し在宅のまま保護観察所の保護観察に付する決定をなすに付き

少年の改悛の情

父母の決意

少年の将来に於ける保護監督(村長並に保護司の陳情)

等を十分考慮されているのである。

之に加え前掲横田長官の訓辞によれば社会公共の福祉と安全確保を十分に考慮すべきである。

六 以上の観点に於て本件の御審判を仰ぐにつき左の如く具体的に上申する。

(イ) 本件の動機

(1) 本件が惹起した遠き原因を尋ねれば四百年の昔から少年居村××部落は□□部落の一部と合して約四百戸が故なく特殊部落として他より交際を断たれ部落内に於てのみ婚姻が継続されて来た。

(2) 最近に於ても小中学校在学中は仲よく交際していた級友も卒業後は全く離別、縁談等は勿論親しき交際も断たれているのである。

(3) 少年並に本件に連座したN、M及びG(尤もこの一人は山口県から数年前に来たもの)は常に他部落のものにあこがれていたのである。

(4) 少年等も本件以外には未た悪事を犯したことなく取調べを受けたこともない。

勿論年頃となり異性に関心を抱いていたことは首肯出来るが(鑑別所の報告の一部御参照)之が本件の如き形態となつて犯されたことは全く偶然である。

「百万人の夜」という雑誌に刺戟されたのである。

(ロ) 犯行の内容

犯行自体は記録にある各供述調書の通りで大胆で勿論面白からざるものがあるが勢の赴く処少年等には之を制止し得なかつたこと、例之坂の上から石を転ばしたと同様遂に止まる処を知らなかつたのである。

しかし少年は他の共犯者の犯行を扶けたことは明であるが少くとも少年自身は被害者に性交を求めていなかつたのである。

結果的に陰部には一指も触れていないのである。

(ハ) 犯行後の状況

少年はあわてて自らの上衣を現場に置いて逃げたのであるが帰宅後全く改心し両親も亦被害者の処へ直ちに謝罪に赴いたのである。

事の重大さを聞くや部落民一同大いに驚き共犯者四名の各親達、区長、民生委員等合計十八名揃つて被害者宅に謝罪に赴いたのである。

或は十八名の多数をたのんで圧迫的態度に出たものでないかと疑われる恐もあるが事実は之に反し部落民一同心から事の重大さを自覚し決して再びかかる不心得者の部落から出ないよう誓約する趣旨に於て揃つて謝罪に赴いたのである。

従つて、所轄駐在所並に○○警察署も圧迫的態度は聊も認めなかつたのである。

その後少年の両親等は細心の注意を以て被害者に「御詫びの意を表している」のである。

少年の両親は事件発生の翌々日国鉄○○駅の物かげにかくれ被害者両名が通勤するや否や、通勤の際に打しおれている様子がないかを祕かにながめていた処幸に朗に二人が話しながら列車に乗り込んだのをみて心から喜び安堵した次第である。

被害者両名も漸く落付き両親の誠意と少年の改心の状況を聞き、又部落民一同が非常なる決意を以てかかる犯人の再び出ないよう努力していることを聞き心から少年の犯せる罪を宥恕したのである。

そして医者に支払つた代金等を受領したのである、只、持参した見舞金はそれ程でないということで一応辞退されたのである。

その後更に御届けするよう手配している。

(ニ) 部落民の決意

部落民は早速協議会を開き本件発生の原因を探究し左の如く企画し実行に移しつつある。

(1) 青少年の娯楽機関がないことに基因するものとしてその設備をなし運動競技をする設備をする。

(2) 中老年と青少年と相互に話合う機会を作る。

(3) 青少年(男女)同志の健全な交際の機会を与え明るい生活をたのしましめる工夫をする。

(4) 将来如何なる犯罪も犯さないように部落民全体が相互に監督し合う。

(5) 適当な指導者を招いて青少年を補導して載く。

(ホ) 本件の如き犯行再発を防く具体的方策

部落内の者殊に少年等の両親及びその関係者が日々夜○○駅に到着する通勤列車に○○駅へ出ていて△△部落(被害者等の居家)若くは暗い途を通る方向へ若い女性だけが帰る場合には送り届ける(女性の父若くは有力な同伴者があれば送ることを差し控える)

この方法によつて少年等の犯せる重大事件に対しての日々の反省をなすと共に再犯(少年等以外の者の犯罪も含めて部落民全体の者)を防止する。

この奉仕は必ず部落を明くすると確信する。

(ヘ) ○○町長○田○三、保護司○島○郎(○○町△△居住)が主任となり少年の保護監督に両親と共に努力する。

七 右の諸点が完全に遂行されれば

(一) 被害者両名は幸に医師の診断書の通り処女膜に何等の異状なく幾分傷を受けたようであるが五日位で全治し何等の傷痕を残さない。

(二) 被害者等は心から宥恕している

の重要な事実と綜合して

前陳横田長官の訓辞される処、又判例の判示指摘するに従い○○町一帯が明るく住みよい社会となり社会公共の福祉と安全は確保され一方少年は完全に立直るよう保護監督育成されるであろうことが十分に期待出来るのである。

換言すれば本件を転機として○○町一帯が住民全部を明るくし住みよい社会となり皆が喜びその日の生活が出来ることになるのである。

更に、一方今日まで暗い団結であつた××、□□の部落が明るい晴々とした団結に輝やかしい明日を迎え得るのである。かかる全員の喜びの為めに又、少年の補導育成の為めに原決定を取消し、保護観察に付する旨の御決定を載き度く本件抗告に及んだ次第である。

立証方法は別に提出する。

昭和三十七年十二月十五日

右抗告人

大橋茹<印>

岡本力蔵<印>

名古屋高等裁判所

金沢支部御中

参考三

追加趣意書

少年 K

強姦致傷保護事件の決定に対する抗告事件

右事件に付き左の通り抗告理由を追加開陳する。

第二点

一 原決定には重大な事実誤認を疑うに足る顕著な事由があり而も審理不尽の違法がある。

即ち

原決定は少年を中等少年院に送致するに付き

「少年の知性はIQ七六に属し計画的積極的に兇悪な非行を敢行したのに拘らず反省の念に乏しく、殊に生活態度が不良であつて、悪戯浪費不良交友等の問題行動が多くその非行は軽視できないものがあり、要保護性は極めて高度と認められる。

しかるに少年の保護者は保護に対する関心が薄く、その保護能力も稀薄であり且つ、地域環境も極めて不良と認められるので在宅保護による更生は到底期待できない。

よつて、少年の資質、年齢、罪質、環境その他諸般の情状に照し施設に収容して矯正教育を実施しその健全な育成を図る必要があると思料し」

と判示したのである。

二 処が智能程度については暫く措き少くとも左記諸点の事実認定は失当で審理をつくしていないのである。

(イ) 本件犯行後反省の念乏しき旨認定している処

少年は非常に前非を悔い日夜被害者始め関係者に対し申訳なしと心から反省改悟している。

未だ少年であるからその表意形式が不十分であるかも知れないが極めて強く反省している。

(ロ) 生活態度に対する認定も事実に相違している。

即ち完全無欠ということは勿論主張出来ないが今日の少年として所謂水準以上か以下かということが問題である。他の時代ではなく今日の現状に於ける他の一般少年と比較して之を考察することが必要で大体水準以上と認めらるべきものである。先づ原決定の認定する智能程度がIQ七六と云えば一応水準すれすれかそれ以下とみるべきである。大体一三〇が上等の部である。かかる程度の少年が他の煽動にかかり易くややもすると悪戯の仲間に入り易いことも十分考えられる。

しかしその指導如何によつては十分に之を改化遷善することが出来るのである。IQ五〇以下では指導困難である。

本件に於ける原決定の少年の生活態度に対し「要保護性は極めて高度と認める」認定をなすに付きその基準として判示する処は左の通りである。即ち

「悪戯(本件の強姦事件は暫く措き)浪費不良交友等の問題が多く」と判示している処その詳細を記録によつて調査するに左の通りである。

例之月々の小費の使用額も必ずしも他の同年輩の者に比し高額という程度に非ず、少くとも浪費という為めには所謂無駄費ということが考えられるが之も時代の流に沿うて他と比較考量して決定せられるべきもので明治大正生の者が終戦前後に生れ今日インフレの時代に教育を受けたものをその尺度で計量することは無理である。

交友関係も曩に述べた通り小中学校在学中は対等に交際していても一旦卒業すれば外国人以上に疎遠になり勢い部落内の交際に制限されるので他の部落からは鉄のカーテンの内を窺う程度の観察となり或種団体が仮にあれはその目的綱領をみず直ちに不良徒輩とみる恐もある。特殊部落の汚名を返上し何とかして他の部落民との交遊を計り度く色々の手段を用いている場合があるが之を単に憎みや軽蔑的に看ることなく憐みと友情を以てみるべきである。このヒガミ、この願が或は悪戯とみられ或は不良的とみられる場合もあるが要は指導如何によつてよく之を育成して行くことが出来るのである。

要之悪戯浪費不良交友というも他部落民に少しでも近づきたい為めに或は見えを張つて浪費といわれ他の部落の友人と交際し度い為めに用いた手段が悪戯とみられ団体的行動が不良交遊と冷い目でみられているので少年等の心からの願いを理解し善導するならば少年院送致にまさる効果を挙げ得るのである。

この点は単に見解の相違認定の問題でなくそれ以前の問題である。即ち如何に特殊部落の青少年の指導をするかの根本問題である。

又更に考慮されねばならないことは軟派に傾きつつある青少年に対しても之をスポーツに或は早期結婚に転換することによつて十分な成果を得られる場合もあることである。

本件の少年の生活態度を御賢察賜り少年院送致を要する程度のものであるかどうかの御認定を賜るに付き右の諸点を十分御審理賜り度く既に○○町長も少年の部落を同和事業モデル地域に指定し町費を以て隣保館設置をなし専任指導者を置くこととしたことも併せ御考慮賜り度いのである。

私(当附添人)共保護司も有力BBS会員を督励して直接間接に保護育成に努力し併せて前掲町長の企図に協力する此等の事情も十分勘案せられ度いのである。

特に御留意賜り度いのは少年院送致は所謂応報刑に類するものでなく少年の保護育成が目的である従つて少年の生活に対する看察も在宅保護可能なりや否やを基準として観察さるべき点である。

(ハ) 「少年の保護者は保護に対する関心薄くその保護能力も稀薄である」と原決定は認定している。

しかし

(1) 少年の父母は今度の事件に対し心から被害者に謝罪し如何にして少年を保護育成すべきかに日夜苦心している。例えば少年鑑別所に約二週間入所中に前後十二回に亘り○○福井間約三十里汽車の時間で往復約四時間をいとわず面会に来て少年の反省を促している。

(2) 被害者の動静を秘にかくれて物蔭からながめ旧日の如く朗かに通勤されていることを確めて漸く安堵し

(3) 一方部落全員総結集悪追放の衆議を起し

(4) ○○町長○田○三、保護司○島○郎が先頭に立つてこの部落の団結によつて一人の落伍者もないよう色々の方策を講じつつあり

(5) 被害者等若い女性の夜分通行の安全を企図し○○駅から△△部落その他への暗い道路を通行する方の見送りをする等諸般の努力をしている。この少年の改化遷善保護育成のみならず部落全員の民度の向上青少年犯罪をなくする為めの努力は洵に涙ぐましいものがある。

加之、少年の保護者は少年の父母、の外に○田町長、○島保護司、○浜区長、小○、川○、仲○町議会議員、仲○、吉○、仲○民生委員等町の有力者及び部落民全員が之に当り具体的に前掲の如き方策が立てられ着々進行している。(弁第一号証御参照)

即ち最少限度にみるも父母、○島保護司、○田町長等は献身的に努力しつつある。

然らば保護に欠くる処はないのである。

(ニ) 地域環境極めて不良と認められる旨認定している処成程所謂特殊部落として他部落と縁組等の交際は断たれているが稀にみる団結心強く各種事業に精励し少年の部落は裕福に相当繁栄している、他部落との交遊なき為め或は環境が悪いように見られる趣もあるが他に比し犯罪者若くは虞犯少年の数多きことなく殊に指導如何によつては団結心が強いだけに却つて他の部落よりもよくなる傾向が強いのである。

○○町に於ては同和事業モデル地区に指定し隣保館を設け専任指導者を置く等積極的指導に乗り出している(町長保護司連名上申書第三号証御参照)こと前陳の通りである。

かくして環境極めて不良という原決定の認定は失当も甚しいというべきである。

三、以上の諸点を集約して原決定は「在宅保護にする更生は到底期待出来ない」旨を審判したのである処、

その基礎となつた右各認定事実は右陳の如く何れも真相に遠く実態を把握していないので所謂重大な事実の誤認を疑うに足る顕著なる事由がある場合に相当するのである。然らば原決定は取消さるべきである、而も審理不十分の恨あることも明である。

因に法務省の犯罪白書によれば

昭和三五年九月発行の分では保護観察の結果統計若くは保護観察の方法等に掲げている殊に少年院仮退院者の保護観察の結果が甚だ憂慮すべき数字を表している。

昭和三七年八月発行の分に至ると、少年院再収容人員は五四%という恐るべき数字を掲げている(三〇八頁御参照)。尤も特中初と区別してみると中等少年院の再収容率は五二・四%である。

かかる数字の報告をみれば中等少年院への送致が少年を果して善導し得るかどうか甚だ疑問である。

更に少年院に送致された少年の生活状況をみるに極貧の者が最も多く中流のものは三・四%である。之は父母が裕福で自宅に於ける生活が両親の力で満足に行けば入所しなくてもすむことを表によつて顕わしているのである。本件の少年の家庭は中流の裕福な家庭である。

次に右白書により在宅保護観察処分少年の保護観察終了人員と終了事由をみるに成績良好解除は昭和三一年以来年々一五・三%から昭和三五年には二〇・三%に上昇し人員も一八、一五四名から二〇、九七一名に増加している(三二九頁御参照)。

此等の表は在宅保護観察処分の有効適切なることを明にし少年院送致処分の悪結果を物語るものである。

加之全国五万有余の保護司福井県内に於ても約四九〇名の保護司と之を補助する多数BBS会員のたゆまぬ努力と献身的な保護育成之に呼応する地方公共団体の各長その部下の方々の並々ならぬ努力による賜ものである。

本件についても偶々附添人に選任された私は幸に長く福井県保護司連合会長であるので地区保護司と協力、極力努力して人間を作つて行き度い決意を以て○○町長等地方有志の熱意に応えん決意を以ているのである茲に抗告趣意第一点と第二点と併せ御考覈の上是非原決定を取消され在宅保護観察の処分に付されんことを懇願してやまない次第である。併せて若し我々に御委せ戴けばこの少年を改化遷善保護育成するは勿論部落全体を明るくし犯罪のない明るい社会を作つて真にモデルケースといたすことを誓います。

立証方法

一、弁第一号証は民生委員、町議会議員等の上申書で青少年の指導町全体を明くする運動の具体的方策

即ち環境は悪くなく少年の保護育成に欠くる処なきこと

二、弁第二号証は被害者両名の上申書で被害者両名共心から宥恕している事実

三、弁第三号証は○田○○町長と○島保護司の上申書で具体的少年の指導方法保護育成に欠くる処なき準備の状況

将来再犯の恐なき状況

少年の父母を始め部落民全員の異状な強い決意

必ずや明るい犯罪のない住みよい町が出来るに相違ない状況

四、弁第四号証は被害者両名の上申書で○○駅に父母が他の者と共に夜分送りに来ている状況

五、弁第五号証を以て被害者が右夜分の送りを余り辞退するので(将来再び間違はなかろうということで)当分夜は寒く気の毒であるとして、各一万円宛を自動車代として渡した事実

尚曩に慰藉料は辞退されたが被害者の医師に支払つた分及び当時の自動車代は支払つてある(他の共犯少年事件に提出ずみ)こと

六、歎願書一通を以て部落民が協力一致していることを

夫々立証する。

尚右書面に不足の部分を補う為め左記証人の御喚問を求める。

人証

証人 ○○町長   ○田○三 町長(弁第二号証)

証人 ○○町△△  ○島○郎 保護司(弁第二号証)

証人 ○○町□□  ○岡○雄 (弁第五号証)

証人 同町××   ○本○蔵

証人 同町××   ○本○え

昭和三七年一二月一七日

右抗告人

大橋茹岡本力蔵名古屋高等裁判所

金沢支部御中

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